ハッピーじゃないエンドでも面白い映画みたいな人生を

あまりに個人的すぎて、下痢のような文章を垂れ流します。

サルトルは読んでない

 

 

 

1月。一昨年になった胃腸炎が再発しないか不安になりながら年末年始を過ごした。

忘れもしない、あれは1月5日、彼女(今の妻)との交際5ヶ月記念日だった。イルミネーションを見に行き、そこで彼女に内緒で買ったペアリングをプレゼントした。彼女は涙ぐんで喜んでくれた。完璧だ、完璧な1日を彼女に演出できた、と私は心の中でガッツポーズをした。最高にロマンチックな雰囲気で駐車場に戻ると、胃のあたりにすこし違和感を覚えた。彼女の家へ向かう車中、和やかなムードとは裏腹に胃のあたりの違和感はだんだん気持ち悪さに変わっていき、不穏な空気が私の胃だけで起こっていた。彼女は微笑みながら指にはめた指輪をいじったり、指輪を買った経緯を語る私の話を楽しそうに聞いていた。この気持ち悪さは、きっと寝ていないせいだろう。この日まで友人の家に入り浸り、昼夜逆転していた私にとって、朝からのデートは身にこたえた。寝ればこの気持ち悪さも治る。そう言い聞かせて、自分を励ましたけれど、途中どうにも我慢できなくなり、

「なんか気持ち悪い」

と彼女に告げた。「え?大丈夫?」そう言って心配そうに見つめる彼女の表情に罪悪感を感じながらも、気持ち悪さを伝えたことで健康な自分を偽らなくていい安堵感と余裕が生まれ、ほっとした。しかし気持ち悪さはなくならない。

「コンビニでちょっと寝ていくわ。そしたら治ると思う」

家の前で彼女を降ろし、私はそのまま近くのコンビニの駐車場に車をとめ、座席を倒し寝る態勢に入った。しかし眠気よりも気持ち悪さが先行してなかなか眠ることができない。気持ち悪さは次第に嘔吐感を連れてきて、はやく吐け、はやく吐け、とせっついてくる。もう限界だ。コンビニのトイレに行って吐こう。トイレまでの道のりを思い浮かべ、最短距離で小走りに向かう自分を何度もイメージした。予習はバッチリだ。よし、なんとか行ける。覚悟を決め、運転席のドアを開けて外に出たとき、道の向こうから走ってくる彼女が目に入った。

「なんでぇ?」

予期せぬ出来事に、人生で1、2位を争う間抜けな声がでた。

その瞬間、車内で練りに練った緊張感は一気に解け、口から数時間前に食べたものが蛇口をひねったみたいに噴き出した。吐く態勢になっていなかったせいか、吐瀉物は鼻に侵入し、不快な臭いが鼻の奥に充満した。その臭いでさらに吐いた。彼女は私に駆け寄ると労わるように背中をさすってくれた。手には水筒と胃腸薬を持っていた。なんて優しい彼女だろう。そう思うと自分の情けなさと吐く苦しさで涙がでてきた。そしてまた吐く。背中をさすりつづける彼女。そして吐く。何度かこれを繰り返すと、ようやく喋れるくらいには気持ち悪さも治まってきた。

「あびばどう」

鼻がつまったまま私は感謝を述べて、彼女の持ってきてくれた水筒の水で口をすすいだあと、胃腸薬を飲み、気遣ってくれる彼女をまた家まで送ったあと、帰路についた。ベッドに倒れ込むと、また気持ち悪くなり、吐いた。もう吐くものが胃に残っておらず、苦い胃液だけがでた。ベッドでもがき苦しみながら、最高にロマンチックだったはずの1日が、最後の最後で台無しになったことを悔やみ、そして彼女の聖母のような優しさが身にしみてそして吐いた。

病院に行くと、陥没性胃腸延滞という診断を下された。そこからまたいろいろあって約1ヶ月間まともに食事を取れなくなるのだが、それはまた今度書こうかと思ったり思わなかったり。