ハッピーじゃないエンドでも面白い映画みたいな人生を

あまりに個人的すぎて、下痢のような文章を垂れ流します。

2019-01-01から1年間の記事一覧

道化の素顔

11月。外でじっとしていると、冷たい空気が手足を通ってじわじわと体の奥へ浸透していく感じがする。まだ一瞬で体温を奪われる寒さにはほど遠いけど、それでもやっぱり寒いと感じる時間が長くなった。 家の小さな庭に生える雑草の伸びが遅くなり、金木犀の香…

カロを目指して(掌編)

ここでは雲が地面に浮いている。標高2,000mにたどり着いたとき、ひたすら茶色い斜面を登ることだけを考え、歩いていた僕らは自然と足を止めた。積層雲だ。アキラは寝ぼけながら僕らの足元から空のずっと向こうまで広がっている雲を力なく指さしてむにゃむに…

ペルディードの時間【小説】

家だと思ったら公園だった。 「ねえ、まだ着かないの?」 ずっといじっているスマホから顔を上げて、助手席に座る娘がトゲのある声で訊ねた。 彼は曖昧な笑顔でごまかして「たしかこのへんだったはず…」とひとりごとのようにつぶやいた。 せまいこの道を曲が…

アンナの結婚生活

9月になった。日中は相変わらず暑いけど、日が沈みはじめると重くよどんでいる湿気もなくなって、さらりとした静かな風が吹いている。夜の闇のなかにゆっくり染み込んでいくような、音もなく草の葉を揺らす風。 彼女が妻になって4カ月が経った。ふたりで生活…

2月くらいの日記

暖かくなってきた。1月に味わった一日中肌を刺すような寒さも緩んで、朝と夜以外はほのぼのした陽気になってきた。 小春日和という言葉が好きだ。『春』という文字が入っているのに冬の季語なのがいいし、小春日和から連想される、暖かい光が溢れるなかで風…